研究概要 |
癌における腫瘍壊死因子(TNF)の多彩な生物学的活性が議論されているが、本研究ではTNFの前立腺癌患者における腫瘍随伴症候群や癌悪液質を中心とした坦癌病態形成に果たす役割や意義について検討した。組織学的に診断された前立腺癌患者において、血清TNF活性をEIAにより測定した。血清TNF活性陽性例の血漿thrombin-antithrombin III complex (TAT)およびplasmin-a2-antiplasmin inhibitor complex (PIC)値はそれぞれ19.8±5.6ng/mlおよび4.3±1.1mg/mlであり、血清TNF活性陰性例(TAT ; 4.1±0.6ng/ml、PIC ; 1.3±0.1μg/ml)に比して有意な増加を認めた。一方、血小板数および血漿フィブリノーゲン値に関しては、両者の間に有意な差を認めなかった。また、血清TNF活性陽性患者におけるsoluble fibrin monomer complex (SFMC)の陽性率は69%であり、血清TNF活性陰性例の4%に比して有意に高く、逆にSFMC陽性例は陰性例に比して有意に高い血清TNF活性を示した(4.1±0.6U/ml vs. 2.2±0.1U/ml)。これらの結果より、前立腺癌に伴う凝固異常とTNFの関連性が示唆された。血清TNF活性陽性患者における血清総蛋白およびアルブミン値、ヘモグロビン値はそれぞれ6.4±0.2g/dl, 3.3±0.1g/dl, 10.2±0.6g/dlであったが、血清TNF活性陰性例においてはそれぞれ7.2±0.1g/dl, 3.9±0.1g/dl, 12.7±0.2g/dlであり、両者の間に有意な差を認めた。また、病期の進行にともなって血清TNF活性の陽性率が上昇し、再燃例は明らかに高い陽性率を示した。これらの結果は血清TNF活性陽性患者における栄養不良および貧血を示すものであり、前立腺癌における消耗状態にTNFが関与している可能性を示唆するものである。
|