卵巣癌では、Cisplatinを中心とした化学療法の導入により、かなりの患者が寛解に至るようになった。しかし、長期予後の改善までには至らず、再発時に有効な化学療法もない。1988年米原らによって開発された抗ヒトFasモノクローナル抗体は細胞にapoptosisを誘導する働きがあり注目されている。apoptosisをきたしつつある細胞は、放射線感受性が増し、また、薬剤耐性を容易にするという報告があり、癌細胞にapoptosisを誘導することは、現在までの癌治療の欠点を補い得る可能性がある。フローサイトメトリーによる検討では、卵巣癌株12例におけるFas抗原の発現頻度は、66.7%(8/12例)であった。内訳は漿液性嚢胞腺癌由来株10例中8例が、陽性であり、粘液性嚢胞腺癌及び明細胞腺癌由来株の各々1例は陰性であった。また、漿液性嚢胞腺癌由来株のNOS2と、そのADM、CDDP、SN-38、VP-16に対する各耐性株のFas抗原の発現は、親株及び各耐性株(ADM耐性株を除く)においては、陽性であった。しかし、ADM耐性株においては、その発現が消失していた。耐性株作成過程における長期のADM投与がFas抗原の発現を抑制したのかもしれない。抗Fas抗体による細胞障害活性を、MTTアッセイにて検討した。Fas抗原を発現していない細胞株においては細胞障害性は認められなかった。また、Fas抗原陽性細胞8例中1例においては、Fas抗原を発現しているにもかかららず、抗Fas抗体により細胞障害を受けない細胞株が認められた。これに関しては新たにFas抗原に変異がないか検討する予定である。Fas抗原を発現している他の7株においては抗Fas抗体1μg/mlの濃度における細胞障害活性は、41.1〜98.9%であった。また、抗Fas抗体による細胞死は、DNAを抽出し電気泳動をしたところladder patternが認められ、apoptosisであることが確認された。
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