まず最初の目的である卵細胞への定量的マイクロインジェクションはマイクロインジェクターの導入により可能となった。これによりいろいろな物質を正確にダメ-ジなく注入することができた。しかしながら当初の目的である卵を活性化する精子細胞質因子の分離精製は、この因子が単一成分でないことがわかり、現在、各成分について検討中である。一方それに伴っておこなった研究で、精子の卵活性化における卵細胞内情報伝達因子をいくつか同定できた。まず受精時に精子の融合によって誘導される細胞内カルシウムの上昇とカルシウムに依存した表層顆粒のエキソサイトーシスをそれぞれに特異的な蛍光色素を用いて定量化する方法を確立した。特に後者は膜蛍光色素TMA-DPHを用いた新しい方法で我々が独自に開発した。次に表層顆粒エキソサイトーシスをひきおこす卵細胞内情報伝達因子をいろいろな既知のインヒビターやアクチベータでスクリーニングしたところ、低分子量GTP結合タンパクとマイクロフィラメントが重要な役割をえんじていることがわかった。受精前のマイクロフィラメントは表層顆粒の分布部位に一致して存在し、受精によってその分布が変動する。この変動と表層顆粒エキソサイトーシスはともにマイクロフィラメントインヒビターで抑制された。このことは表層顆粒エキソサイトーシスにマイクロフィラメントが関与する可能性を示唆している。またGTP結合タンパクをそのアクチベータで活性化すると表層顆粒エキソサイトーシスがおこり、それが細胞内カルシウムに依存しないことがわかった。さらにこれが低分子量GTP結合タンパクのRabファミリーに属することを明らかにした。今後これらの機能を詳細に検討していく予定である。
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