研究概要 |
(1)平成6年度の研究計画に基づいて胎盤を構成する絨毛細胞における主要組織適合抗原の発現の機構を解析するため,樹立絨毛癌細胞株を用いて以下の解析を行った。 絨毛細胞における主要組織適合抗原クラスI分子の発現 絨毛癌由来細胞株(BeWo,GCH1,NUC1,HCCM5,SCH)からグアニジン法を用いて全RNAを抽出し,従来のHLA-A,B,C(古典的クラスI)のプローブとしてHLA-B7のcDNAおよびHLA-G(非古典的クラスI)のcDNAをプローブとしてノーザンブロッティングを行った。その結果、絨毛癌由来細胞株での主要組織適合抗原の発現は古典的HLAクラスIを発現する株(NUC1,HCCM5,SCH)とHLA-Gを特異的に発現する株(BeWo)を認めた。これは以前に発表した蛋白レベルでの解析と一致しており、HLAクラスIの発現は転写レベルで調整されていることが判明した。 (2)絨毛細胞の核内因子とHLAクラスI遺伝子上流域との結合 HLA-AおよびHLA-Gの染色体遺伝子の転写開始点から上流域約1kbの塩基配列の保存領域,非保存領域を検討すると,HLA-A遺伝子上流にはすでにエンハンサーA,インターフェロンコンセンサス配列(ICS)が報告されているが,HLA-G遺伝子にはエンハンサーAにみられるパリンドローム構造がいくつかの塩基置換によって消失しており,またICSも欠如していた。これらの部位のDNA断片を制限酵素やデリーション法を用いて数百bpとし,上述の絨毛癌由来細胞株の核抽出蛋白との結合をゲル移動度シフト法を用いて解析した。その結果,古典的HLAクラスI分子を発現する細胞株ではエンハンサーAと結合する核内因子の発現量とHLAクラスI分子のmRNAの発現量が一致することを見出した。HLA-Gを発現する細胞株BeWoではエンハンサーAとの結合因子の発現を認めず,HLA-G遺伝子上流域のDNA断片と特異的に結合する蛋白の存在を確認した。
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