研究概要 |
主任研究者らが、ヒト精漿中に見いだしたイムノグロブリン結合因子(IgBF,immunoglobulin binding factor)は、PWM刺激リンパ球幼若化反応を強く阻害することから、精子に対する抗体産性を抑制していると考えられる。実際、精漿中のIgBFが精子付着抗原として女性内性器内に持ち込まれる他、RT-PCRを用いた検討の結果、子宮頚管にIgBFmRNAを検出し、IgBFが女性内性器内で局所分泌されることも証明している。さらに唾液腺に含まれるarginilendopeptidaseあるいはリンパ球の産生酵素であるtryptase TL1による、arg-Xの加水分解というIgBFの活性化機構の存在を明らかにした。 本研究では、引き続きin situ hybrydization法を用いて女性内性器内におけるIgBFmRNAの局在を検討した他、さらに分子シャペロンなど、プロテアーゼ以外の活性化機構の存在を検討し以下の結果を得た。 1)IgBFのRNAプローブを作成し、各組織切片でin situ hybridizationを行ったところ、頸管組織中の頸管腺にのみantisense mRNAによるIgBFmRNAのシグナルを認めた。頸管間質部および子宮内膜、卵管などにはシグナルを認めなかった。ELISAによる定量的検討およびRT-PCRの成績と併せ、IgBFは子宮頚管腺から分泌されていることが明らかとなった。 2)IgBFは、生体内還元ペプチドであるgluthatione存在下で活性型モノマーとなる他、分子シャペロンの一つであるprotein disulfide isomerase処理することにより、非還元下で抗Leu-11-b抗体に反応性を示す活性型モノマーとなることが判った。 以上の成績から、精子付着抗原として持ち込まれる精漿中のIgBFおよび子宮頚管腺から分泌されるIgBFが、局所においてプロテアーゼによる加水分解や還元化あるいは分子シャペロンなどにより活性化されるという、女性内性器内における、精子の同種抗原による感作の抑制メカニズムの一つが明らかとなった。
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