研究概要 |
主任研究者らが、ヒト精漿中に見い出したイムノグロブリン結合因子(immunoglobulin binding factor,IgBF)は、PWM刺激リンパ球幼若化反応を強く阻害することから、精子に対する抗体産生を抑制していると考えられる。しかし精漿から純化したIgBFは、不活性なhomodimerであり、in vivoでは、作用発現部位における活性化機構の存在が示唆される。そこで本研究では、IgBFの生理機能を明らかにする目的で、局在、分子構造および活性発現の機構を検討し以下の結果を得た。 (1)IgBFに対する単クローン性抗体を用いた高感度のELISA法を開発し、IgBFが子宮頸管粘液および気管分泌液に多量に含まれていることが判った。 (2)RT-PCR法およびin situ hybridizationにより、子宮頸管腺にIgBFmRNAの局在を認めた。 (3)抗IgBF抗体のヒト精子への反応性を検討し、精漿中のIgBFが非活性のhomodimerの形で、精子付着抗原として女性内性器中に運び込まれることを明らかにした。 (4)IgBFは、glutathioneの存在など、還元下に活性型のmonomerとなる。しかしカルボキシメチル化IgBFは不活性であり、活性発現にはSH基の存在が必要と考えられた。 (5)IgBFを、唾液腺由来のarginilendopeptidaseおよびT細胞由来のtryptase TL1処理することにより、非還元下で活性を示す画分が発現した。すなわち蛋白分解酵素によるarg-Xの加水分解というIgBFの活性化機構が明らかとなった。さらに分子シャペロンの一つであるprotein disulfide isomerase処理により、非還元下で活性型モノマーとなることが判った。 以上の成績から、精子付着抗原として持ち込まれる精漿中のIgBFおよび子宮頸管腺から分泌されるIgBFが、局所においてプロテアーゼによる加水分解や還元化あるいは分子シャペロンなどにより活性化されるという、女性内性器内における、精子の同種抗原による感作の抑制メカニズムの一つが明かとなった。
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