免疫性不妊症の発症機序を解明していくためには、抗精子抗体の対応抗原の同定が不可欠である。今回我々は、不妊症患者の抗精子抗体と反応し、ラット精子との交差抗原性を有するヒト精子抗原75kD蛋白質及びヒト、ラット、マウスの精子を凝集させるモノクローナル抗体YWK-IIに対応する抗原の細胞外領域に相当する合成ペプチドの中、能動免疫による避妊効果が認められたYAL-198について、以下の実験を行い、いくつかの知見を得た。 1.75kD蛋白質中の不妊症と関連する抗原分画決定のための合成ペプチド作製 ヒト精子抗原75kD蛋白質の既に決定されたアミノ酸配列より、蛋白質の抗原性に最も関係があるとされる親水性の領域を推定し、2つの領域について16残基のアミノ酸より成るポリペプチドをFmoc固相法によって合成した。この2つのペプチドの収量は17mgと15mgで、アミノ酸組成比を測定し、当初の予定したペプチドとほぼ相同であることを確認した。 2.YAL-198に対するモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の作製とそのヒト及びマウス受精系に対する影響の検討 (1)抗YAL-198モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体(IgG分画)を作製し、ヒト精子凝集試験、精子不動化試験、及び透明帯除去ハムスターテストを行った。結果はいずれも陰性であった。 (2)マウス受精系及び胚発育に対する影響をみるためマウス体外受精時に抗YAL-198抗体を添加し、受精率、胚細胞分割率を測定した。受精率は抗YAL-198抗体群(モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体)と対照群に差はみられなかったが、胚発育に関しては、抗YAL-198抗体添加によって4細胞以上の胚分割を著明に阻害した。 以上より、合成精子抗原ペプチドYAL-198の避妊効果は受精障害ではなく、胚発育の阻害である可能性が示唆された。
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