研究概要 |
黄体機能不全、すなわち子宮内膜組織の妊孕性維持における役割の低下が不妊や不育の大きな原因になっており、その役割を詳細に検討することが、不妊症や不育症の新たなアプローチの開拓に役立つものと推察される。胚は子宮腔内で成熟し、着床の準備を整え子宮内膜に着床する。そのため子宮内膜組織は単に着床する場所を提供するのみではなく、もっと積極的に受精卵の成熟に関与しているものと推察される。そこでまず子宮内膜間質細胞(stromal cell : SC)と胚との共培養系を作製し、胚の成熟の促進の有無につき検討した。さらに現在不妊の大きな原因とされている子宮内膜症(endometriosis : EM)を持つ患者のSMとの共培養も行った。その結果、健常人のSMとの共培養ではEM患者(EM patient:EMP)のSMとの共培養に比較して、胚の成熟が促進された。そこで次にEM腹水の共培養系に与える影響を検討したところ、腹水は胚の成熟を抑制した(古久保ほか:EM研究会誌、1995,Umesaki N et al:Proc.Asea Oceanic Ob and Gyn.1995)。また胚の成熟に関連する物質を検討するために、EMPの血清の影響を検討したところ、血清の添加により抑制された(伊藤ほか:EM研究会誌、1995)。さらに免疫学的な原因と推察される習慣流産患者の血清中にも胚の成熟を抑制する因子の存在があきらかとなった(深山ほか:不妊学会発表、1995)。また胚の成熟を促進する方法の開拓のため赤血球との共培養を行ったところ成熟を促進した(Matsuoka et al : FEBS Letter,1995)。これらの成績より、健常人のSM、および培養液中に赤血球が存在することが胚の成熟を促進させること、EMPのSM,腹水、血清は胚の成熟を抑制することが明かとなった。現在、血清や腹水、またSM培養上清を比較しながら、胚の発育に関係する物質の検討を行っている。さらにSMの胚成熟の促進に関連する種々のcytokineの影響についても検討中である。
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