母乳中に大量に存在するTGF-βが乳児の免疫系にどのような作用をもたらすかをマウスを用いて解析した。 1.NRN49F細胞を用いたコロニー形成法により定量的に母乳内のTGF-βを測定した結果、母乳内TGF-βは全量として740〜1160ng/mlであり、活性型は30〜330ng/mlであった。次にマウスの胃内へ母乳を注入して、30分後の胃内液の活性型TGF-βは約2倍に増加し、潜在型TGF-βを大量に含む血小板の胃内投与では約10倍の活性型TGF-βが増大した。 2.マウスに母乳あるいはTGF-βを経口投与し、同時に抗原として羊赤血球(SRBC)を経口投与すると、SRBCに対する抗体産生は低下するが、SRBCを尾静脈、腹腔内、気管支内へ投与すると、SRBCに対する抗体産生は逆に増大した。母乳内のTGF-βをアフィニティーカラムにて除去すると、SRBC抗体産生への影響力は消失した。それゆえ、母乳内に存在する種々の免疫調節因子の中でも特に強くTGF-βは免疫調節作用を発揮するものと考えられる。また、TGF-βの肝臓内投与は抗体産生の増大を導くことを見い出した。 3.ヒト小腸上皮細胞(Intestine407)およびマウス正常肝実質細胞(Clone 1469)の培養上清は抗体産生を増大させたことより、Clone1469由来のサイトカインを調べた結果、特にClone 1469よりIL-10が分泌されることが、ELISPOT法、ELISA法にて確認された。またIL-10mRNAの発現もPCR法にて明らかにした。TGF-βのClone 1469培養中への添加はIL-10の分泌を増大させ、Clone 1469培養上清による抗体産生の増大活性は抗IL-10抗体の添加により抑制された。以上の結果は、すくなくともTGF-βは肝実質細胞よりのIL-10の産生を促進し、生体内の免疫増強作用を発揮するものと推測しえた。
|