胎盤は血栓の好発部位である。その理由として胎盤絨毛間腔の血流が緩徐であること、胎盤には多量の組織トロンボプラスチンが存在することなどがあげられている。さらには妊娠中は血液の凝固能が昂進しておりまた血小板凝集能も昂進しているとされている。さて妊娠中毒症の発症予防や治療に抗血小板療法が有効であることが示され、血小板の妊娠中毒症の病態への関与が深く示唆されている。母体血液と接する絨毛上皮刷子縁膜は血管内皮としての性格をもたねばならない。そこで母体血液と接する絨毛上皮刷子縁膜に着目し妊娠初期から妊娠末期にいたる妊娠各時期と妊娠中毒症の絨毛組織より分離した膜小胞を用いてその血小板凝集阻止活性の変化について詳細な検討を行った。その結果母体血液と接する絨毛上皮刷子縁膜には妊娠初期より顕著な血小板凝集阻止活性が存在することが初めて明確となった。さらにこの絨毛上皮刷子縁膜の血小板凝集阻止機構についてさらなる検討を加えた。その結果絨毛上皮刷子縁膜には、妊娠初期よりADP分解活性が存在し血小板凝集阻止に関与していることを明らかにしえた。このADP分解活性ならびにADP惹起血小板凝集阻止活性は妊娠時期で変化を認めなかった。一方軽症妊娠中毒症ではADP分割活性ならびにADP惹起血小板凝集阻止活性は正常妊娠と差は認められなかったが重症妊娠中毒症では有意に低下していた。すなわち重症妊娠中毒症胎盤でみられるADP惹起血小板凝集阻止活性の低下はADP分解活性の低下によるものと考察された。今後この絨毛上皮刷子縁膜の血小板凝集阻止機構を解明することは重症妊娠中毒症の治療、発症予防につながるものと期待される。
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