妊娠時には、血液凝固能、血小板凝集能は昂進しており、妊婦の血液は易凝固性の性格を有している。非常に血流速度の遅い胎盤絨毛間腔での血栓形成は少なく、胎盤絨毛に存在する独自の抗血栓的な機構が存在すると考えられるがその詳細は不明の点が多い。我々はこの母体血流に直接接する胎盤絨毛上皮刷子縁膜が血液凝固系の制御に重要な役割を果たすと推察しこの胎盤絨毛上皮刷子縁膜に存在する血液凝固阻止活性、血小板凝集阻止活性の詳細につき検討を加えた。ところで周産期における重要な産科合併症である妊娠中毒症に関するとされる慢性DIC状態における胎盤絨毛上皮刷子縁膜の血小板凝集阻止活性の変化についてもあわせて検討を加えた結果、以下の成績を得た。 1.ヒト胎盤絨毛上皮刷子縁膜には強力なADP分解活性が存在しその酵素学的な特徴を明らかにし得た。また、刷子縁膜の可溶化分画よりADP分解活性の部分精製に成功した。 2.ヒト胎盤絨毛上皮刷子縁膜のもつADP分解活性は妊娠初期より存在し妊娠週数で差を認めないことが判明した。また軽症妊娠中毒症では正常妊娠と差は認めなかったが重症妊娠中毒症では有意に低下を認めた。 3.ヒト胎盤絨毛上皮刷子縁膜の血液凝固阻止活性について、ヘパリン様活性の存在をさらに明確にし得た。またヒト胎盤絨毛上皮刷子縁膜にはアンチトロンビンIII結合活性が存在することを明確にしえた。
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