海産魚のニシンで見いだされた「成熟未受精卵より分泌された蛋白による精子活性化機構が、ヒトの受精においても機能していることが示唆されている。本研究では、ニシン精子活性化蛋白遺伝子に由来するcDNAをプローブとしてヒト卵巣cDNAライブラリーをスクリーニングし、精子活性化蛋白の遺伝子工学的方法による大量調製法の確立と、卵巣における遺伝子発現細胞の同定を目的としている。ヒト卵巣cDNAライブラリーのスクリーニングの結果、ニシンのプローブとハイブリダイズするcDNAクローンを8クローン得ることができた。これらのクローンのインサートDNAの塩基配列の一部を決定し、ホモロジー検索を行ったところ、それらクローンの一つはフランスの研究者らによりヒトのリンパ芽球cDNAライブラリーによりクローニングされたcDNA断片群(それぞれ約300塩基対)の一つと一致していた。しかし、そのcDNAがどの様な蛋白をコードするかは全く分かっていない。残りのクローンのインサートDNAは、全て未だ報告されていない遺伝子に由来するcDNAであった。これらcDNAのクローンは卵巣のライブラリーよりスクリーニングされたが、本当に卵巣だけで発現しているかを調べるため、それぞれのクローンについて、各器官および組織より調整したRNA標品を用いたノーザンブロット法を行って検討している(2クローンのみ検討済み)。現在、卵巣だけで発現していると考えられるクローンを一つ得ている。このcDNAがどの様な蛋白をコードしているかを決定するため、完全鎖長のcDNAクローンの分離を試みているが未だ成功していない。このクローンが分離できたら、インサートDNAをヴァキュロウイルス発現ヴェクターに組み込み、昆虫の鱗翅類の卵巣細胞由来の培養細胞由来の培養細胞であるsf9細胞に導入して、当該遺伝子のコードする蛋白を大量に調製し、その生理活性を調べる予定である。
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