平成6年度に確立した囲卵腔内精子注入法(SUZI)改良法の安全法をサルで確認することを試みた。しかしながら予備実験の通常体外受精で、過排卵誘発により良好な卵成熟がどうしても得られず、計39個の卵のうち受精0個であった。卵成熟の不良を克服するための予備実験の継続は経済的に困難であるため、サルの実験は中止とした。そこで安全性の面で問題のない技術的改良点のみを取り入れたSUZI改良法を、重症男性不妊の治療において継続評価した。重症男性不妊の卵あたり受精率は、通常体外受精で3.1%、SUZI従来法で15.3%、SUZI改良法で、32.6%と有意に増加し、SUZIの技術改良により通常体外受精に比し約10倍の受精率となった。しかしながら採卵術あたりの継続妊娠率は、通常体外受精とSUZI従来法では0%、SUZI改良法では7.3%と、改善の傾向はあるも有意ではなかった。そこで次に、卵細胞質内精子注入法(ICSI)により受精に至らせることを検討した。まず、ヒト精子とハムスター卵子を用いて、ICSIの技術面の改良を検討した。精子懸濁液の精子濃度を1/100に希釈して10万/mlとすると、受精率が有意に増加した。ICSI直前にsperm midpieceを圧挫して不動化すると、受精率が増加する傾向が示唆された。さらにピエゾ・マニピュレーターの使用は、卵損傷率を有意に低下し、また受精率も有意に増加した。そこで重症男性不妊の治療にICSI改良法を施行した。改良法は、10万/mlの精子浮遊液より1匹の運動精子を選び、sperm midpieceを圧挫して不動化した後、ピエゾ・マニピュレーターを用いて卵細胞質内に刺入・注入した。ICSI改良法は、受精卵数・分割胚数および妊娠率を有意に増加し、継続妊娠率も20%と、臨床的に満足できるレベルとなった。本研究により、重症男性不妊の治療成績は、男性因子正常者の体外受精成績にほぼ匹敵するものとなった。
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