平成6年度では、優良精子を高精度に選別し、これを囲卵腔内精子注入法(SUZI)により囲卵腔内に注入し授精に至らせることを、ヒト精子とハムスター卵子を用いて検討した。まず、運動精子選別の新しい方法(swim-shift法)を開発し、より多くの運動精子の回収に成功した。さらにこの方法にpisum sativum agglutinin affinity column法とPercoll密度勾配遠沈法とによる選別を組合せて、選別精度をより向上した。また精子先端反応を惹起することが報告されているcalcium ionophoreとdilauroyl phosphatidyl cholineによる精子刺激を検討し、calcium ionophoreで若干の精促進を得た。さらに、sucroseの卵毒性が疑われたため、これを用いなくても卵損傷が防げるようにSUZIの顕微操作法を改良し、受精率を改善した。平成7年度では、こうして得た改良SUZIの安全性をサルで確認することを計画した。しかしながら、予備実験において過排卵誘発で良好な卵成熟がどうしても得られず、通常対外受精でさえ全く受精が得られなかった。予備実験を継続してこの問題を克服することは経済的に困難なため、サルによる実験は中止とした。そこで、重症男性不妊のSUZI治療に、安全性の面で問題のない技術的改良点のみを取り入れた。その結果、受精・胚発育は有意に改善できたが、妊娠率の改善は限られたものであった。そこで優良精子を高精度に選別し、これを細胞質内精子注入法(ICSI)により受精させることを検討した。まず、ヒト精子とハムスター卵子を用いて検討し、精子懸濁濃度の希釈・ピエゾマニピュレーターの使用およびsperm midpieceの圧挫により受精率の改善を得た。そこで、臨床応用を試み、受精卵数・分割胚数および妊娠率の有意な増加を得た。継続妊娠率も20%と、男性因子正常者の対外受精成績にほぼ匹敵するものとなった。
|