研究概要 |
内耳液の存在は、内耳における音刺激の伝達や音知覚に必要なエネルギーの供給、感覚細胞の保護、代謝産物の供給といった様々な重要な役割を担っている。研究代表者である高橋らは、これまで、内耳組織及び内耳液(特に外リンパ液)の定量的分析を、主に電気泳動法を中心とした手法を用い、正常例において行なってきた。外リンパの分析では、特異的に多く存在する30kD蛋白を中心に研究を進めてきている。 30kD蛋白は酸性領域に数個のスポットとして2Dゲル上に現れる。このスポットはCSFにも認められ、蛋白量当たりの含有量は、外リンパ液中のそれと有意差は正常動物においては認められなかった。血清中においては、有意に外リンパ中のそれと比べ小さい。本蛋白の本態はレクチンなどを用いた免疫泳動法によって、ある種の糖蛋白であることはほぼ確定的である。 また、強大音負荷による外リンパ液の蛋白分析では、30kD蛋白の有意の変化は現在のところ、認められていない。今後、条件を変え更に検索する予定である。 70kD群のHSPでは、外リンパ中への発現は捉えることはできていないが、免疫組織化学的方法によれば、内耳組織中への発現が、音響負荷にて認められることが証明されている。今後の研究の方向としては、内耳組織を中心に試料作成を行い、負荷条件を変えながら、70kD,90kD群HSPの音響負荷による発現の変化を、定量電気泳動学的に検索を進める予定である。特に、90kD群HSPについては、内耳感覚細胞の再生と関係しているものと考えられ、非常に興味深い所である。 研究遂行上の問題点としては、1.内リンパ液量の確保:内リンパ液は外リンパ液に比べ微少であり、測定の最低必要量である1ulを確保することが困難である。場合によっては、数匹の動物からの採取液を条件ごとに一括し、定性する事が必要となる。2.HSPモノクローナル抗体の質:70kD HSPについては、満足のいく抗体が市販品にて入手可能であるが、90kD HSPについては、未だ特異性の低いものしか入手できず、定量限界が悪い。今後、市販品以外の抗体も研究室レベルから入手し、試してみる必要がある。等が挙げられる。
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