研究概要 |
我々はヒト慢性副鼻腔炎鼻汁と特異的に反応する18個のモノクローナル抗体の作製に成功した。これらの抗体はその染色性から大きく以下の4種類に分けることができた。慢性副鼻腔炎上顎洞粘膜において(1)上皮の杯細胞のみと反応するもの(1個),(2)粘膜下腺細胞のみと反応するもの(4個),(3)杯細胞と粘膜下腺細胞に反応するもの(11個),(4)杯細胞,腺細胞と血管内皮細胞を認識するもの(2個)であった。このうち7個はIgMに属し11個はIgG_1であった。固定法の影響を検討すると,アセトン固定したパラフィン切片では凍結切片と同様な反応性が認められたが,ホルマリン固定標本では10個の抗体で主に粘液細胞の反応性が低下した。精製した慢性副鼻腔炎鼻汁を抗原として行ったウェスタンプロットでは,反応性を失った2個の抗体を除いていずれの抗体も高分子量領域を中心とした広い範囲の物質と反応した。また過ヨウ素酸による抗原処理ですべての抗体で反応性が消失し,いずれの抗体も糖鎖を主要部分として認識すると考えられた。他動物(ラット,モルモット,犬)や他臓器(気管,顎下腺,耳下腺,胃,結腸,膵臓)でも種々の交差反応性が確認された。 次に疾患特異性を検討する目的でプールした慢性副鼻腔炎鼻汁とアレルギー性鼻炎鼻汁を用いて,ドットプロットにて各モノクローナル抗体の反応性を検討したところ,抗体によって慢性副鼻腔炎鼻汁とアレルギー性鼻炎鼻汁で反応性に差がみられた。組織学的にもアレルギー性鼻炎の下甲介粘液では粘液細胞との反応性が低下している抗体が多く,慢性副鼻腔炎下甲介の粘液細胞の性質が異なる可能性が考えられた。現在は疾患による差と共に,粘液の性状や病態における変化,部位や個体による差について検討中である。今後はこの抗体を利用したELISA法の開発により,鼻汁面からの臨床診断や治療効果判定の一手法として役立てたいと考えている。
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