我々はヒト慢性副鼻腔炎鼻汁と特異的に反応する18個のモノクローナル抗体の作成に成功した。その反応性から以下の4種類に分けることができた。慢性副鼻腔炎上顎洞粘膜において(1)上皮の杯細胞のみと反応する抗体、(2)粘膜下腺細胞のみと反応する抗体、(3)杯細胞と粘膜下腺細胞に反応する抗体、(4)杯細胞、腺細胞と血管内皮細胞を認識する抗体、以上の4種類である。ウェスタンブロットや過ヨウ素酸に対する反応性から、いずれの抗体も分泌顆粒中の高分子量粘液糖蛋白の糖鎖を主要抗原として認識すると考えられた。他動物(ラット、モルモット、ウサギ、イヌ)や他臓器でも種々の交差反応性が確認された。ドットブロットによる慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎鼻汁の反応性を検討したところ、抗体によって慢性副鼻腔炎とアレルギー性鼻炎鼻汁で反応性に差が認められた。免疫組織化学的検討でも慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、術後性頬部のう胞などの疾患で下鼻甲介粘膜の分泌細胞に対する反応性が異なっいることが明らかになり、抗体の一部は疾患特異的な粘液の性状の変化の認識に役立てることができると考えられた。 作成された抗体は粘液分泌量の定量的測定法としても役立てられている。近年、びまん性汎細気管支炎や慢性副鼻腔炎などの上下気道の慢性炎症疾患に対してエリスロマイシンなどの14頁環系マクロライド剤の有用性が確立されているが、その作用機序は不明な点が多い。そこでエリスロマイシンの鼻粘膜上皮細胞からの粘液分泌におよぼす影響を、鼻粘膜上皮の細胞培養モデルを用いて検討した。粘液分泌量は杯細胞の分泌顆粒と特異的に反応する抗体HCS18を利用してドットブロットを行い、バンドの濃さをDensito meterで定量的に測定した。その結果、エリスロマイシンは上皮細胞からの粘液分泌に直接影響を与えず、炎症反応の制御を介した関接作用によって気道分泌を制御すると考えられた。
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