ノルアドレナリンニューロン系の機能低下が感覚混乱を引き起こしめまいが発症する可能性を検討する目的で、感覚混乱による内耳性めまいの動物モデルとしてラットの一側耳のカロリー刺激を行い、中枢のノルアドレナリン神経核である青斑核ニューロンが抑制されることを見い出した。青斑核ニューロンの抑制は37℃水の刺激や、耳介刺激では起こらず、内耳破壊したラットのカロリー刺激でも起こらないことから、前庭刺激により起こった感覚混乱に特異的な反応であると結論した。カロリー刺激による青斑核ニューロンの抑制は、GABAレセプターのアンタゴニストであるビクロトキシンの静脈内投与により減弱することから、GABAレセプターを介した反応であると推測された。青斑核ニューロンの抑制は、舌下神経前位核、孤束核、上位中枢の破壊によっても減弱せず、延髄腹外側部の破壊によりブロックされた。この結果から、青斑核ニューロンの抑制は、前庭入力が交感神経中枢である延髄腹外側部を経由して青斑核を抑制することにより生ずると考えられた。今後は、GABAレセプターおよびオートレセプターであるα2レセプターのアンタゴニストを微小電極から電気泳動的に青斑核に直接投与し、青斑核ニューロンの抑制が細胞体に存在するGABAレセプターを介して起こっていることを証明する計画である。また、交感神経中枢を直接刺激することによりカロリー刺激による抑制と同じ反応を青斑核ニューロンに起こせるか検討する。ノルアドレナリン神経系の前庭刺激による抑制メカニズムを解明する研究が、ノルアドレナリン作動系薬物を中心とした抗めまい薬を開発する際の基礎データとなることが期待される。
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