ノルアドレナリンニューロン系の機能低下が感覚混乱を引き起こしめまいが発症する可能性を検討する目的で、感覚混乱による内耳性めまいの動物モデルとしてラットの一側耳のカロリック刺激を行い、中枢のノルアドレナリン神経核である青斑核(LC)ニューロンが抑制されることを見い出した。カロリック刺激による青斑核ニューロンの抑制は、GABAレセプターのアンタゴニストの静脈内投与及び電気泳動投与により減弱することから、GABAレセプターを介した反応であると推測され、LCニューロンの抑制は、舌下神経前位核、孤束核、上位中枢の破壊によっても減弱せず、延髄腹外側部(VLM)の破壊によりブロックされた。この結果から、LCニューロンの抑制は、前庭入力が交感神経中枢であるVLMを経由してLCを抑制することにより生ずると考えられた。臨床的には、カロリック刺激によってめまいや、悪心、嘔吐、血圧の変化などの前庭自律神経反射が起こる。このような際に、VLMが血圧の変化をもたらし、同時に、LCの活動を抑制すると考えられた。以上の実験の結果、めまい、動揺病を引き起こす異常前庭入力による感覚混乱時には、LCノルアドレナリン神経系の活動が抑制されると考えられた。LCは感覚情報の統合、選択に関係していると考えられている。また、LCノルアドレナリン神経系は、上位脳のほぼ全域に影響を及ぼす。このことから、LCの抑制により起こった中枢神経系の感覚処理能力の低下が、感覚混乱を引き起こす可能性が考えられた。これらの実験結果は、抗めまい薬、特にノルアドレナリン作動系薬物を開発する際の基礎データになると考えられた。
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