高齢者の嚥下機能を正確に評価するために、従来の嚥下圧測定法と咽頭食道透視法をそれぞれ改良し、65歳以上の嚥下障害例および咽喉頭異常感症例を対象に下記の検査結果を得た。嚥下圧検査を行った12例を、脳血管障害等による神経障害が嚥下障害の原因と推定された6例、および神経障害の無い加齢変化のみと推定された6例、の2群に分けてみたが、嚥下圧伝搬曲線パターンに両群間で差異が無く、センサ間伝搬速度値も両群とも若年正常者とほぼ等しい、21cm/秒程度であった。咽頭食道透視を行った54例を脳血管障害等による神経障害が嚥下障害の原因と推定された18例、神経障害の無い加齢変化のみと推定された20例、およびその他16例の3群に分けてみた。咽頭流入あるいは喉頭流入(喉頭挙上期型誤嚥を含む)を認めた割合は、それぞれ、15例(81%)、8例(40%)、8例(50%)に達した。加齢変化のみと推定された20例における嚥下時の口腔・咽喉頭各部の動きの定量解析では、一定の傾向を認めなかった。 本研究課題では高齢者で特に問題とされる嚥下第II期反射の遅延の程度を定量化する目的で、前記項目を検討した。咽頭流入等定性的項目では60歳以上に比べて65歳以上では嚥下第II期開始障害の頻度が増大する等の知見を得たが、定量的項目では一定の知見が得られなかった。今後症例を増やし、高齢者に多く認められた嚥下第II期開始障害を定量的に捉える解析点を追求し、その基準化を進める予定である。この様な解析は、高齢者嚥下機能の特徴を明らかにし、高齢者嚥下機能診断法の確立に寄与するものと期待される。
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