聴神経腫瘍手術、耳下腺腫瘍手術、頭部外傷に併発する顔面神経の障害に対して、神経の端々縫合術、神経移植術、舌下神経や副神経との吻合術、遊離神経血管筋移植など種々の修復術が行われている。これらの神経修復術の選択は術者の経験により選択されており、科学的な裏付は十分ではない。本研究では顔面神経麻痺における再建手術としての舌下神経-顔面神経吻合と舌下神経-副神経吻合の有用性を比較検討した。まず、モルモットを用いて舌下神経-顔面神経モデルを作製し、その中枢および末梢神経における神経再生を電気生理学的、組織学的に、また再生線維の舌下神経核、顔面神経核における分布についても比較検討した。さらにYチューブを用いて顔面神経の末梢端に舌下神経と副神経の中枢端を同時に接合させ、両神経の再生力の相違を組織学的に比較検討した。組織学的解析には本研究にて購入した顕微鏡TVカメラとパーソナルコンピューターを用いた。その結果、モルモットにおける舌下神経-顔面神経吻合術は6ヶ月でほぼ完了し、しかも術前とほぼ同じ程度まで回復することが電気生理学的および組織学的に明らかになった。HRPを用いた実験では8割の動物において舌下神経-顔面神経吻合術後に顔面表情筋が舌下神経と顔面神経の二重神経支配を受けていることが明らかになった。また、Yチューブを用いた研究から舌下神経-顔面神経吻合術の方が再生神経線維数とその大きさにおいて舌下神経-副神経吻合術より優れていることが明らかになった。すなわち、本研究により舌下神経-顔面神経吻合術が顔面神経障害後の神経修復術として、その神経再生、再支配の面で副神経との吻合によるも優れていることが動物実験でも証明された。
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