ニッケルとチタンの合金であるNi-Ti形状記憶合金を使ったアブミ骨プロステ-シスにつき、イヌキヌタ骨長脚に対する移植実験を行い、その組織適合性について検討を行った。さらに臨床への実用化のためテフロンにて完全に被覆した実験用フックを作成しその組織適合性も併せて検討した。 使用した合金は東北金属社製で直径0.1mm、これを外径、0.81mm、0.90mm、1.10mmのステンレス針に巻きつけ、記憶熱処理を行い、約40℃で記憶された形状に完全回復するようにした。合金を切断し移植実験用フックを作成し、さらにテフロンコーティングを行った。実験動物として成犬12頭(8〜13kg)を用い、コーティング無しのものを7頭8耳、テフロンコーティングのものを5頭7耳に移植した。手術操作のみのコントロールは4頭4耳であった。手術後92〜198日にキヌタ骨を摘出した。その結果、連鎖の離断したもの、明らかな骨吸収を認めたもの、フックの外れていたものは認められなかった。光顕標本の観察により骨組織の変化は認められなかったが、骨周囲ではほとんどの移植耳でフックの周囲に肉芽を形成し皮膜が認められた。テフロンコーティングのものは形成された肉芽組織の皮膜が線維性組織に置換されフックが固定されている所見を認めた。コーティング無しのものはmyxomatousで脆弱な血管の増殖など比較的間質に富んだ幼若な肉芽組織を形成し、出血、血腫の認められる移植耳も認められた。これらの所見は移植期間の長いものほど著明となる傾向であり、フックの固定の弱さが示唆された。コーティング無しの形状記憶合金そのままのプロステ-シスは長期移植において問題があるが、テフロンコーティングを行ったものは組織適合性について問題はなく線維性組織によりしっかり固定され、その手術操作の簡便性から臨床応用に非常に有用である。
|