今回、経粘膜的換気障害がその発症機転に関与していると推測されている浸出性中耳炎をネコにおいて作成し、正常治で行ったように各種ガス分圧を有するガスにて中耳腔を置換し、その後のガス交換にて生じる中耳腔圧変化及び酸素センサーによる酸素分圧の変化を測定しようと試みた。しかしながら浸出性中耳炎発症時ネコの耳管が高度に狭窄状態を生じたため各種ガスにて中耳腔を置換することができず、動物モデルにおける実験は不可能であった。このため浸出性中耳炎患者症例で鼓膜チューブを挿入した症例に対し上述の実験を試み、中耳粘膜が正常と思われる外傷性鼓膜穿孔例との比較を行った。置換したガスは純窒素、空気、95%O_25%CO_2の混合ガス、純O_2の4種類であった。外傷性鼓膜穿孔例では酸素濃度に比例して酸素の吸収拡散が認められた。すなわちN_2を負荷したときは中耳粘膜からのO_2の強い拡散が認められ、また空気、混合ガス、純O_2と0_2がより高濃度になるに従ってO_2のより急峻な吸収が認められた。この結果はガスが粘膜を介して中耳腔から粘膜へまた粘膜から中耳腔へと双方向に移動しうること、またその移動量がガス分圧差に比例することを示している。さらに上述のガス置換を浸出性中耳炎例に対して行ったところ、空気、混合ガス、純O_2置換時に外傷性鼓膜穿孔例と比較してより急激な酸素吸収が認められた。この結果は浸出性中耳炎発症時、中耳粘膜が低酸素状態になる可能性を示唆するものであり、また浸出性中耳炎発症時の中耳腔内陰圧形成にこの中耳粘膜の低酸素状態が関与していることが想像される。
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