ヒト正常例および滲出性中耳炎例において、各種ガスにて中耳腔を置換し、嚥下を禁止した状態で中耳腔圧、中耳腔内の酸素分圧を測定した。 その結果、 1)正常例で、置換する各種ガスの組成により、中耳腔と中耳腔周囲組織の間にガスの吸収、拡散が生じた。ガスの移動方向、移動量は、置換後の中耳腔内ガス組成と周囲組織、すなわち中耳腔周囲の粘膜下毛細血管内のガス組成の圧勾配と、ガスを構成する各気体の拡散能により規定されていることがわかった。 2)95%酸素と5%二酸化炭素の混合ガスで中耳腔を置換したとき、正常例と滲出性中耳炎例では、測定結果に差がみられた。症例数がまだ集まっていないが、滲出性中耳炎の治癒過程で測定結果も変化し、正常例の測定結果に近づく傾向がみとめられた。 以上のことより、中耳腔において経耳管的ガス交換の他に経粘膜的ガス交換が存在していること。中耳腔粘膜の炎症によって、中耳腔と中耳腔周囲組織の間には、正常例と異なるガスの平衡様式が存在することを確認した。 今後、このように滲出性中耳炎にとどまらず、様々な中耳疾患を検討し、臨床検査に応用したいと考えている。
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