平成6年度には、可逆性の閾値上昇が生じる程度の音響暴露を行ったモルモットにおいて、暴露直後および回復期に蝸牛神経複合活動電位(CAP)と、蝸牛の能動的音変換機構の持つ非線形に由来するとされる二音刺激時の蝸牛マイクロホン(CM)電位上の2f1-f2歪成分を中心に観察を行った。その結果、暴露後のCAP閾値の上昇とその後の回復に伴い、2f1-f2歪成分の出力は同様に低下および回復を示した。これらの結果より、音響暴露後にみられる可逆性の閾値上昇(NI-TTS)は、外有毛細胞の機能が障害されることによって生じていると結論された。続いて、外有毛細胞の機能の中でも電気-機械変換を障害するとされているサリチル酸を用いて同じ蝸牛内誘発電位を測定し、音響暴露と同程度のCAP閾値上昇を起こす量のサリチル酸投与では、音響暴露後とは異なった様式の変化を示すとの結果を得た。従って、音響暴露では機械-電気変換の障害が生じている可能性が考えられた。 平成7年度には音響暴露とサリチル酸投与の相互作用について、蝸牛誘発電位に加え歪成分耳音響放射を新たな指標として、モルモットにおいて検討を行った。その結果、両者の相互作用は、それぞれを与える順序により異なることが判明した。すなわち、サリチル酸を投与した後に音響を暴露した群では、それぞれを単独で行った群における変化を合わせたものにほぼ相当する効果を示したのに対し、音響を暴露した後にサリチル酸を投与した群では、前群に比して各指標の変化の程度は小さく、ことに音響暴露による影響の大きい周波数域ほど、引き続くサリチル酸投与による障害は軽微であることが判明した。 さらに、今回の実験を行っている際に偶然に遭遇した、蝸牛内の自発交流電位についても検討を行った。人工呼吸器の停止によるanoxia負荷や、外部音による抑圧を行った結果、この自発交流電位は蝸牛基底膜上の電位の周波数を特徴周波数とする部位の近傍において、蝸牛機械系の能動的振動により産生されていると結論できた。
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