研究概要 |
カエル水晶体ρ-クリスタリン(RHO)のThr-55残基は他のアルド・ケト還元酵素ではすべてTyr残基として保持されている.このTyr残基は補酵素NADPHの水素転位に重要な役割をすると考えられている.そこでこのThr-55残基のTyr残基への復帰変異を試みた.Wild-及びThr-55変異型RHOは前年度に確立した大腸菌HB101を用いる系で同じ条件で発現し、アルド・ケト還元酵素の代表的な基質であるp-nitrobenzaldehyde及び9,10-phenanthrenquinoneの還元活性を指標にRed Sepharose,Mono-Q,Mono-Sカラムを用いて同様に同じ条件で精製した.両発現蛋白質の溶出パターンは全てのクロマトグラフで基本的に同じである,Wild型RHOは大腸菌由来の還元活性から完全に分離され全く活性のないクリスタリンとして精製される,ところがTyr-55変異型RHOは上記二つの基質を還元する能力を有する酵素として精製された.加えてヒドロキシアパタイトおよびゲルろ過クロマトグラフでもTyr-55変異型RHOの蛋白質と酵素活性の溶出は完全に一致している.ウエスタンブロットでは両者は免疫学的に同一であったが、ペプチドマップの比較ではまさに一つのペプチドに相異が見られた(現在このペプチドの一次構造の確認中).以上の結果から,Thr-55残基のTyr-55残基への復帰変異が行われ,その結果酵素活性の復帰が達成されたものと推察された.最大の成果はこのTyr-55変異型RHOにグルコース,ガラクトースおよびキシロースに対する還元活性が検出できたことであった.この結果はポリオール浸透圧説に基づく白内障の脅威を回避するためにカエルが選択した分子進化上の戦略であったことを強く支持するものである.裏を返せば,糖尿病性合併症の発症においてポリオール浸透圧説を支持するものであり,本研究の最終目的が達成されているものと期待される.
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