研究概要 |
カエル水晶体cDNAライブラリーから,ρ-クリスタリンをコードするクローン(R7FF)を単離した。pUC18系発現ベクターpMRを調製し,天然同型ρ-クリスタリンの発現系を確立した。組換え体ρ-クリスタリンのN末端はTLTKETRと同定され、天然型ρ-クリスタリン-II(ρ-クリスタリン-IはN末端がブロックされている)と同型である。アルド・ケト還元酵素ファミリーのアミノ酸配列の相同性から,55-ThrをTyrに点突然変異を導入した。pMRおよび55Tyr-pMRから、それぞれ、wild-type-ρ-クリスタリン-IIおよび55Tyr-ρ-クリスタリン-IIの発現を行った。Sephadex G-100,Matrex OrangeA,およびMonoSクロマトグラフィーで,SDS-PAGEで単一の精製標品を得た。wild-type-ρ-クリスタリン-IIには全く酵素活性が検出されないが、55Tyr-ρ-クリスタリン-IIにはアルド・ケト還元酵素活性が検出された。至適pHは6と9の二相性を示した。pH6.5で0.1mM9,10-phenanthrenequinoneにたいする比活性は0.63units/mg proteinであった。しかし、プロスタグランジンF合成酵素の基質prostaglandinD_2は55-Tyr-ρ-クリスタリン-IIの基質にはならなかった。一方、グルコースなどの糖に対するアルドース還元活性は9,10-phenanthrenequinoneに対する相対活性で1%以下と低いものであったが明らかに基質となることが判明した。以上のことより,ρ-クリスタリンの分子進化の過程で,たったひとつのアミノ酸残基(55Tyr→Thr)の置換がグルコース還元活性すなわちアルドース還元活性を放棄するのに最も重要であったと考えられた。
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