細胞成長因子ミッドカイン(midkine、MK)は、胚性腫瘍細胞(テラトカルシノーマ)で最初に同定されたヘパリン結合性細胞成長因子で、レチノイン酸による分化誘導によって活性が発現する.マウスの胚発生初期には、角膜や網膜とその周囲で遺伝子が発現する.また、線維芽細胞の増殖や神経細胞突起の伸長など神経栄養因子としての作用をもつことも確認されている.ラットの遺伝性網膜変性や光照射による網膜変性は、硝子体に細胞成長因子を注入しておくと阻止もしくは遅延される、という知見が蓄積しつつある.そこで、細胞成長因子ミッドカインの白色ラット光網膜変性に対する効果を検討した.連続光照射による実験的網膜変性に対する、レチノイン酸応答性成長因子ミッドカインの変性阻止・遅延効果を検討した.白色ラットとマウスの左眼の硝子体にミッドカインを、右眼(対象眼)の硝子体にコントロール溶液を注入したあと、7日間、14日間あるいは21日間にわたって連続的に光照射しながら飼養した.ラットにおいては、連続7日間の光照射では、ミッドカイン注入眼はほぼ正常の網膜を示したが、対象眼は視細胞外節の短縮や外顆粒層の厚さの減少を軽度ながら示し、マウスでも同様の結果であった.さらに、マウスでは連続14日間の光照射では、対象眼では視細胞の障害がしだいに顕著になった.そして、21日間の連続的光照射では、視細胞の外節と内節は消失し外顆粒層はわずかに同定できる程度であった.一方、ミッドカインで処置した眼では、14日間以上の連側光照射によって視細胞の障害は明らかであったが、対象眼と比較すると障害の程度はきわだって小さかった.外顆粒層の厚さを測定して障害の程度を評価した結果は、上記の観察に一致した.この実験結果は、光網膜障害さらには網膜変性に対して、少なくとも実験的検討の段階では、ミッドカインが有望な保護効果をもつことを示している.
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