細胞成長因子ミッドカイン(midkine、MK)は、胚性腫瘍細胞(テラトカルシノーマ)で最初に同定されたヘパリン結合性細胞成長因子で、レチノイン酸による分化誘導によって活性が発現する.マウスの胚発生初期には、角膜や網膜とその周囲で遺伝子が発現する.また、線維芽細胞の増殖や神経細胞突起の伸長など神経栄養因子としての作用をもつことも確認されている。このミッドカインが、白色ラットの連続光照射視細胞変性に対して変性遅延効果を有することを組織学的な手法を用いて示した。今回、その効果を網膜電図を測定し検討すると、光障害網膜ではb波が消失しているのに対して、MKを注入した網膜ではb波は比較的保たれており、MKが電気生理学的にもsurvival promoting factorとしての効果を持つことを示した。さらに、このミッドカインの虚血による網膜変性に対する効果を検討した。Lewisラットの硝子体中に、ミッドカイン(1μg/μl)を左眼に、PBSを右眼にそれぞれ1μl注入した。前房にカテーテルを留置し、眼圧を120mmHgに上昇させ、60分間加圧した。虚血操作後、7日目、14日目に眼球を固定、眼球を半割、エポンに包埋、薄切、光学顕微鏡により観察した。網膜変性に対する効果を定量的に評価するために、1)内境界膜-外境界膜2)内網状層-内境界膜3)内顆粒層4)外顆粒層の厚さを測定した。虚血により、神経節細胞数は減少、内網状層や外網状層は薄くなり、内顆粒層は正常では5層であるのに対して2〜3層となった。内境界膜-外境界膜、内網状層-内境界膜、内顆粒層の厚さは、正常網膜に比較して有意に減少した。虚血後7日目のミッドカイン注入網膜は、PBS注入群に比較して内境界膜-外境界膜、内網状層-内境界膜、内顆粒層の厚さは有意に厚く、虚血による障害より保護効果を認めた。ところが、14日目では、ミッドカイン注入群で有意に変性保護効果が見られたのは内顆粒層のみであった。
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