本研究では、ヒト水晶体(主として手術で得られた老人性白内障水晶体)の皮質から可溶性画分を調整し、その可溶性画分中のアスコルビン酸フリーラジカル(AFR)還元酵素をDEAE-セルロースイオン交換カラムクロマトグラフィーによって主分画と副分画に分離した。さらに、主分画AFR還元酵素は、5'AMP-セファロース4BアフィニティーそしてセファクリルS-200HRゲル濾過カラムクロマトグラフィーによって部分精製を行ない、続いて未変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(Native PAGE)によって純化した。主および副分画AFR還元酵素は基質特異性が若干異なっており、純化した主酵素はSDS-PAGEで約20と24kDaに二つのバンドが検出され、本酵素がサブユニット構造からなる可能性が示唆された。SDS-PAGEゲル上の約20と24kDaバンドはブロッティング後、N末端アミノ酸配列の分析を行なったが結果は得られず、N末端がブロックされている可能性が考えられた。 主および副分画AFR還元酵素は類似したジアフォラーゼ活性(外来化合物還元酵素活性)をも有しており、主酵素はその精製過程を通じて常にジアフォラーゼ活性を示した。可溶性ジアフォラーゼ活性の半分以上がAFR還元酵素に基づくと計算された。さらに、老人性白内障水晶体において、ジアフォラーゼ活性はAFR還元酵素活性と同様に不溶性蛋白質の増加と共に減少していた。なお、本酵素の特性は、ジアフォラーゼ活性を有することがよく知られているDT-ジアフォラーゼやNADH-チトクロームb5還元酵素そのものとは異なっていた。 以上の結果から、ヒト水晶体においてAFR還元酵素はアスコルビン酸を還元維持するだけでなく、種々の酸化物を直接還元するジアフォラーゼとしても機能しており、本酵素の活性低下は水晶体蛋白質凝集と密接に関係していると推察された。
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