研究概要 |
網膜のコリン作動性アマクリン細胞は視覚情報の伝達を修飾・制御し、分解能を高めていると考えられている。これらの作用の細胞内メカニズムを知るにはアマクリン細胞の初代培養が有効な手段となるが、この培養に必須とされる高活性の神経栄養因子は未だ見い出されていない。我々は、95%以上神経細胞と確認した初代培養の脳海馬神経細胞の培養上清中に網膜アマクリン細胞の成長・突起伸展を促す熱安定性の分子量約1000のペプチド性因子を見いだした。この培養上清をSephadex G-15による分子ふるいクロマトグラフィーと2種類のC18カラムによる逆相液体クロマトグラフィーを用いて精製した。この精製標品は、気相プロテインシークエンサーを用いた分析により、Tyr-Leu-Leu-Pro-Ala-Gln-Val-Asn-Ile-Aspの10個のアミノ酸配列から構成されていることが明らかになった。 従来知られている脳由来因子および細胞外マトリックス因子はいずれも分子量10,000以上であり、神経細胞以外でも合成され、突起伸展活性を持つとされているnerve growth factorやepidermal growth factorなども分子量6,000-15,000とやはり本因子より大きい。 今回決定したこの配列に、50%以上の相同性を示す内因性ペプチドおよび蛋白質は現在までに報告されておらず、新しい神経栄養因子と考えられる。以上のことより、本因子は網膜および脳内の神経回路形成に働く重要な物質であると考えられる。従って本因子は新たに加えられるべき神経栄養因子と考えられる。この因子は低分子ペプチドであることから、合成ペプチドの網膜変成疾患への適用の可能性もあり、臨床的にも有用な物質と考えられた。
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