本研究の目的は、重度視覚障害者(児)の残余視機能を実生活に有効に生す方法を、眼科医療の立場から明らかにするのが究極的な目的であった。平成6年度は視覚的補助具の1つである拡大読書器を利用するロ-ビジョン者の眼球運動を分析し、さらに視覚障害者(児)の実生活における不自由さの調査を行った。平成7年度はさらに歩行時における眼球運動の分析を行った。また、両年度にわたり、川崎医大眼科リハビリテーション・クリニックでの視覚障害者(児)の指導の中で、特に高年齢中途失明(視覚障害)者のQOL向上に必要な事柄を明らかにし、具体的な指導も行なっている.そして講演会も開催して、障害者を取り巻く社会的環境の不備な点についても明らかにした。 先ず、読書時における眼球運動は、視力障害者においては晴眼者よりもブロックとして読み取る語句数が少いため、眼球移動回数の増大と戻り運動(読み直し)の増大が認められ、視野障害者も同様傾向を認めた。また、拡大読書器による読書は、視運動の眼振を伴うため、書見台を動かす手の動きと拡大された書字を見る眼の動きをうまく調整する指導が必要であることが明らかとなった。これは縦文字、横文字の文章でも同じことが認められ、どちらの文章スタイルが視覚障害者によいかの結論は見い出せなかった。歩行時における視覚障害者の眼の動きは、晴眼者に比して明らかに少く、他の感覚に依存していることが推定された。従って外的環境での歩行を安全にするためには、歩道の少くとも地上から背丈の高さの範囲には危険物を設置しない配慮や、視覚障害者(児)が特異的に感知出来る聴覚、嗅覚や皮膚感覚用刺激およびセンサーを開発することが今後の課題として考えている。
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