ラット培養細胞系において腫瘍抑制効果をもつDAN遺伝子のヒト相同遺伝子はヒト染色体1p36.11-p36.13上に座位しており、神経芽腫で高頻度に認められる染色体欠失の共通領域内にあった。そこで神経芽腫とDAN遺伝子との関与を解析することを目的に本研究を行った。 サザン法による解析では神経芽腫細胞株におけるDAN遺伝子の構造異常は認められなかったが、一部の細胞株でDAN遺伝子発現の著明な抑制あるいは消失を認めた。またDAN遺伝子発現とN-myc遺伝子発現との間に逆相関が認められた。臨床例26例の腫瘍DNAを用いたサザン法による解析の結果、3例の腫瘍で正常では認められない異常断片が検出され、DAN遺伝子が構造異常を受けている可能性が示唆された。以上の解析でDAN遺伝子は神経芽腫のがん抑制遺伝子の有力な候補遺伝子であることが示された。 DAN遺伝子産物の腫瘍抑制効果はヒト培養細胞系では試みられておらず、DAN遺伝子産物が神経芽腫細胞株に及ぼす効果を解析することは興味ある問題である。そこでDAN遺伝子発現ベクターを構築しヒト神経芽腫細胞株TGWに導入・強制発現させ細胞形態、増殖能、造腫瘍能、N-myc発現に及ぼす効果を解析した。その結果、外来DANcDNAを発現する数個のクローンを単離することができ、その発現量はいずれもラット正常線維芽細胞のレベルに達せず、DAN発現クローンと対照クローン、親株間で、細胞形態、増殖能、コロニー形成能に顕著な差は認められなかった。また、DAN遺伝子発現にともなうN-myc遺伝子発現の変化は認められなかった。われわれが用いた細胞株、遺伝子発現システムではDANcDNA強制発現による腫瘍抑制効果は認められなかったが、得られたクローンのDAN遺伝子発現量が低かったこと、TGWは1番染色体に欠失が認められない細胞株であることを考えると、他の遺伝子導入法や細胞株による検討が必要と思われ、現在引き続き解析を行っている。
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