(研究目的)シアロ複合糖質の代謝酵素の一つである細胞質シアリダーゼが、歯の形成過程で何時どのくらい出現するかを経時的に追跡し、歯の形成における本酵素とシアロ複合糖質の意義をかいま見ること。(研究結果)本酵素の抗体を用いた免疫組織化学的研究から、ラット臼歯歯胚における本酵素は、胎生期にほとんど出現しないが、生後2日には将来の咬頭部に目立つようになった。出現部位は、歯胚の上皮および歯乳頭であった。その後、歯乳頭では免疫染色性が徐々に高まり、歯の萌出時にピークに達した。これとは対照的に、歯胚上皮では出現時の低い免疫染色性がそのまま歯の萌出時まで続いた。口腔粘膜上皮では、生後16日に本酵素は出現し、その免疫染色性が高まって生後18日にはプラトーに達し、以降そのレベルが維持された。したがって、歯胚上皮と口腔粘膜上皮とは歯堤を介して構造的なつながりを持つので、歯堤の途中に本酵素の免疫染色性が急に低下する部位が見られた。上記の結果をより確実なものとするため、本酵素のmRNAについても出現時期と出現量を明らかにすべく遺伝子組織化学的手法によって試みたが、非特異的な染色が多く、まだ明確な結果を得ていない。現在、特異的な染色結果を得るべく染色方法を吟味している。(結論)今回の結果から、本酵素は歯髄の形成や機能と密接に関係する可能性が示唆された。さらに、本酵素の生物学的意義を明らかにする手がかりが得られたと思われる。すなわち、歯堤において、本酵素が明確に出現していえる上皮とほとんど出現していない上皮とを細胞の微細構造について比較し、本酵素と細胞活性との関連性を明らかにできれば、本酵素の意義を知る手がかりとなろう。その点を研究課題とする科学研究費補助金(平成7年度)を文部省に申請した。
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