一酸化窒素(NO)は生体に対して毒性の強いガスで、大気汚染でも問題になっている。しかしこの物質が血管内皮細胞由来血管拡張因子として生体内の生理活性物質として同定され、さらに脳内で神経情報伝達物質として近年注目を浴びるに至った。我々はNO合成酵素であるNADPH-dをラット下位脳幹で組織化学的に染め、三叉神経感覚核吻側亜核(Vo)、吻外側孤束核(Sn)、paratrigeminal nucleus(paraV)や尾側亜核(Vc)の特殊な群に陽性ニューロンを見いだした。同時に口腔領域を支配する三叉神経一次求心線維の中枢性終末をWGA-HRPの越神経節輸送を利用して標識し、NADPH-d陽性ニューロン群の存在する部位が三叉神経口腔内支配枝特に舌神経三叉神経要素の中枢内投射領域と重なり合うことを示した。このことからNOは口腔顔面の感覚運動反射に関与することが考えられる。各々の末梢神経の切断によりNADPH-d陽性ニューロン数がSn/Voでは切断側が、paraV/Vcでは両側性に減少することを示した。このことからNOの発現は核により異なる制御を受けることを示した。又上記各神経核のNADPH-dの発現を胎生期の初期から出産後及び成熟期に至るまで観察した。Vo/Snでは胎生15日目から成熟期まで出現するが、Vcでは大細胞層では出産後4日目(P4)から浅層部及びparaVではP10から成熟期に至るまで出現した。以上所見から脳幹三叉神経核にはNOを産生すると考えられるニューロンが胎生期初期から存在し、口腔顔面領域の感覚運動発現の生理学的な機能に関与すると考えられる。
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