研究概要 |
白血球毒素を産生する歯周病原性細菌,A.actinomycetemcomitansにおいて、「増殖=毒素産生」という関係は成立しない。毒素産生を導く環境因子は何か?そして、毒素産生の制御機構はどのようなものか?これらが、本菌の病原性を理解するための重要な課題といえる。本年度の研究では以下のような知見が得られた。 1.白血球毒素産生のカタボライト抑制: 糖を増殖基質とした場合、糖濃度が低いレベルにあるときのみ(糖が増殖を制限している状態のとき)、毒素産生が起こることがわかった。一般に、糖制限状態と糖過剰状態の培養では、細胞内サイクリックAMP(cAMP)レベルが異なり,cAMPレベルを介した代謝調節が示唆されている。現在、細胞内cAMPレベルと毒素産生との相関を検討している。これまでの結果から,[cAMPレベルの上昇→毒素産生のスウィッチオン」という仮説を立てるに至っている。また、毒素遺伝子オペロンプロモーター領域の塩基配列の解析も同時に進めている。 2.白血球毒素産生の増殖速度依存性: 白血球毒素産生量は増殖速度の上昇とともに増大した。増殖速度を制限できるケモスタットを用いて、糖制限条件で嫌気培養した場合、増殖速度(μ)を0.03h^<-1>から0.20h^<-1>まで段階的に上昇させると、それに応じて単位菌体当たりの毒素産生量が増加し、μ=0.20 h^<-1>の時の産生量はμ=0.03 h^<-1>の時の産生量の5〜6倍に達した。この増殖速度依存的な制御が転写レベルで起こるのか、転写後のレベルで起こるのかを、ノーザンブロット解析等で検討する予定である。
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