研究概要 |
1)平成6年度では2匹のマウス下顎切歯を麻酔下で切断し、歯髄内にWGA-HRPを注入し、48時間後に潅流固定して同側の中脳と三叉神経節を採取した。試料をクライオスタットで凍結切片を作製し、細胞体に取り込まれたHRPをdiaminobentizineで反応させて可視化して顕微鏡下でHRPを取り込んだ細胞体と取り込まない細胞体の長径を計測した。HRPを取り込んだニューロンは長径30〜40μmの大型の細胞体であった。我々の以前の結果、つまりマウス切歯歯髄に分布する神経は全て無髄神経であることと、有髄神経が決して根尖孔から歯髄内に侵入しないことから、HRPを取り込んだ大型のニューロンは最初から無髄神経を出すものと考えられた。 2)平成7年度、8年度(報告書の作成を1年延期したためデータ追加のための実験を行った)では、歯髄に分布するサブスタンスP(SP)やカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)含有神経のカプサイシン処理による消長をしらべるべく実験を行なった。生後2日マウス(3匹)にカプサイシン(50mg/kg)を皮下投与した。対照(3匹)として溶媒のみを同量投与した。投与後6ケ月に0.1Mリン酸ナトリウム(PH7.4)に溶解した2%パラホルモアルデヒドと0.21%ピクリン酸混合液で潅流固定した。下顎骨と共に下顎切歯を採取、同固定液でさら1夜(4℃)固定した。その後、脱灰をせずにエタノール系列で脱水し、水溶性樹脂であるヒストレジンに包埋した。4〜5μmの薄切片を作製したところ周囲の硬組織は良く切れたが、歯髄内への樹脂の浸透が悪く、SPとCGRPの蛍光免疫染色を実施できなかった。ヒストレジンに包埋すると脱灰せずに(細胞の抗原性を失活せずに)硬組織を薄切できることが分かったので、今後樹脂の歯髄内への浸透法を改善し、引続きこのテーマについて検討したい。 3)本課題の実施計画にはなかったが、最近NOが知覚神経における伝達物質として注目されているので、歯髄に分布するNO合成酵素であるNADPH diaphorase(NADPH-d)の歯髄内局在について関連するデータとして追加したい。4%パラホルムアルデヒドと0.2%ピクリン酸を含む0.1Mリン酸緩衝液で潅流固定した切歯と臼歯をEDTAで脱灰した後、厚さ40μm以下の切片を作製した。薄切片をNADPH-d活性検出用の反応液[1mMβ-NADPH,0.5mM nitroblue tetrazoliumin 10mM PBS(0.3%Triton X-100を含む)]に40〜60分間浸漬(37℃)した後、光学顕微鏡で観察した。臼歯歯髄の象牙芽細胞直下のいわゆるラシュコフの神経叢にたくさんの黒色に染まったNADPH-d陽性線維が観察された。これらの線維は象牙芽細胞さらに象牙前質に達しているものも見られた。このことから象牙質または歯髄の知覚にNOが何らかの役割を持つことが推測された。
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