研究概要 |
当該年度は最終年度にあたり、前年度につずいてモアレ解析と統計的検討を行い、以下のような結論を得た。歯列弓のサイズにおける性差は,長径に比べて幅径で性差が大きかった。弦の計測項目は長径と類似したパターンを示した。歯列弓のサイズは,一般に日本人が大きく,フィリピン人,Yami族は小さかった。しかし、Yami族の幅径は日本人とほぼ同じ大きさを示した。女性は歯列弓長幅指数が小さく,相対的に幅径が小さかった。集団を比較すると,Yami族では相対的に歯列の幅径が大きかった。前方よりは後方の口蓋高で性差が大きい傾向を示した。口蓋高は日本人が最も小さく,次いでフィリピン人で,Yami族が最も大きかった。概して集団間の違いは小さかった。日本人では歯頸部から正中部への口蓋前頭断面の傾斜度が強く起伏の大きい口蓋形態を呈していた。 歯列弓計測項目のうち集団のサイズを最もよく表現するものは弦および歯列弓長と考えられる。シェイプを表現する計測項目は歯列弓幅であった。大臼歯部の歯列幅は集団の差が顕著に表れる。 口蓋高のサイズでは,第二小臼歯より遠心で正中線に近い部位のものが集団間の違いに関与していた。正中部付近における前後的な口蓋高の差異,第二小臼歯より遠心での歯頸部に近い部位での口蓋高がシェイプを表現する計測項目と考えられる。これらは,それぞれ矢状断における前後的な傾斜,前頭断における左右的な傾斜を表現している。 歯列弓と口蓋の形態を人類学的研究に応用する場合には様々な問題点が生じる。とくに比較に用いる形質の遺伝的要因と環境的要因の強さのバランスは考慮されるべきだある。
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