エナメル質は、ハイドロキシアパタイト(HA)結晶からなるが、その初期石灰化の過程については、有機基質が結晶核の形成に関与しているのか、象牙質HA結晶を核として形成されるのかいまだ明らかにされていない。さらに最初に析出する結晶についても、初めからHAなのか、あるいは不定型リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、トリリン酸カルシウム、オクタリン酸カルシウム(OCP)などHAへ転化するような前駆物質が介在するか否かについても不明である。本研究は、高分解能電子顕微鏡や免疫電顕法を駆使して、これら不明点を解明することを目的としたものである。 昨年は、格子間隔の測定結果から、エナメル初期結晶は、OCPである可能性を報告した。本年度の観察では、2本の結晶格子を物結晶の中に、8.2Åと10.4Åの異なる格子間隔をもつもの、3本の結晶格子を持つ結晶では10.4Åの格子を8.2Åの格子がサンドイッチしているものと、3本とも8.2Åの結晶格子をもつものがあった。エナメル質の形成が進むにつれ、結晶格子の数は増し、それらの格子間隔はすべて8.2Åであった。これらの結果から、初期結晶はOCPとして出現し、その後OCP上にHAがエピタキシャルに成長し、しだいにOCPが加水分解してHAに変化すると考えられる。 また初期結晶の核形成に何が関与しているのかを明らかにするためアメロジェニンを用いて識別したところ、stippled material中に結晶が形成されていない段階でも、エナメル初期結晶は象牙質結晶と接合しているので、エナメル質は、象牙質結晶表面に異種核発生して成長し始めることが示唆された。
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