エナメル質は、ハイドロキシアパタイト(HA)結晶からなるが、その初期石灰化の過程については、有機基質が結晶核の形成に関与しているのか、象牙質HA結晶を核として形成されるのかいまだ明らかにされていない。さらに最初に折出する結晶についても、初めからHAなのか、あるいは不定型リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、オクタリン酸カルシウム(OCP)などHAへ転化するような前駆物質が介在するか否かについても不明である。本研究は、高分解能電子顕微鏡や免疫電顕法を駆使して、これら不明点を解明することを目的としたものである。エナメル質の最初に出現する結晶は、既に石灰化を開始した象牙質側の有機基質中に認められ、象牙質のHAと接しているものが多かった。結晶の格子間隔は、8.2Å、10.4Å、13.9Å、16.5Åを示し、結晶の厚径の増加にしたがって格子間隔が小さくなり、HAの100面のd値(8.17Å)に近づいた。格子間隔が8.2Åを示すものは、HAと同定される。リン酸カルシウムの中で8.2Åより大きいものはOCPのみである。今回観察された10.4Å、13.9Å、16.5Åの格子間隔は、OCPの値に近い。この結果は、OCPがHAの前駆体である可能性を示唆した。またOCPとHAの層状構造およびそのOCPがしだいにHAに変化しているのが観察されたが、これはOCP上にHAがエピタキシャルに成長し、その後OCPが加水分解してHAに変化したと考えられる。またアメロジェニンを用いた免疫電顕法によると、stippled material中に結晶が形成されていない段階でもエナメル初期結晶が象牙質結晶と接合しているので、エナメル質は、象牙質結晶表面に異種核発生して成長し始めたことが示唆された。 以上のことから、エナメル質初期結晶は象牙質結晶(HA)を核としてまずOCPとして形成され、その後HAに加水分解され成長すると考えられる。
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