本研究では聴覚からのフィードバック入力が音声の発声にどのように影響するかについて、ラットを実験動物として実験的に明らかにすることであった。ラットは可聴音の他に超音波を発声するが、その発声は特異的な行動と結び付いて発声されるもので、可聴音の発声と異なり、可聴音成分を含まない独特のものであるので、聴性フィードバックの影響を調べるモデルとして適当と思われた。本年度では、ラット自発発声を行動学的手法によってその頻度を高め、発声機能への影響を調べる系を確立することがまず必要であった。そのためシャトルボックスを購入し、それをパソコン制御するハードウェアの作成とプログラムの作成を行った。またラットをシャトルボックスに慣れさせる訓練を行った。次に聴性フィードバックをかけるための装置の作成について、TDTシステムIIシグナルプロセッシングシステムを購入した。これは最近、開発され普及し始めた音声聴覚研究のために特に作られた装置で、基本的にはA/Dボード・D/Aボードなどに必要なインターフェイス装置を組合せてパソコンから制御できるように作られた装置で、音響実験ができやすいようにシステム化されている。これには定型的実験のために既に用意されているプログラムもあるが、多くの場合、個別の実験にはそのまま利用できず、付属する個別機能のプログラムを組み込んで、自分の実験系のためのプログラムを開発しなければならない。そこで、本実験のために本装置の個々の機能を確かめながら、実験のためのプログラムの作成を行った。さらに動物実験として、ラット発声に影響する神経系について特に反回神経、横隔神経などの発声機能に及ぼす影響についての神経生理学的実験を行った。
|