平成6年度と7年度の科学研究費補助金をもとにした味覚誘発性摂取行動に関する研究結果の概要を、行動学的側面と神経生理学的側面とに分けて報告する。 1.橋味覚野(PTA)正常動物においては、蒸留水、ショ糖液が律動的なリッキング運動を、また食塩水と塩酸キニ-ネが摂取拒否行動をそれぞれおこした。他方、PTAを両側性に電気破壊した動物においては、蒸留水、ショ糖液の摂取行動に対する効果には大差なかったが、食塩水や塩酸キニ-ネがしばしば律動的なリッキング運動を誘発した。その頻度や持続時間は、蒸留水やショ糖液に比べれば低くまた短かったものの、摂取拒否行動のみ観察されたPTA正常動物とは大きく異なっていた。この結果は、味覚誘発性摂取運動を制御する中枢機構においてPTAの果たす役割が、蒸留水やショ糖液と食塩水や塩酸キニ-ネでは相違する可能性を示唆する。 2.PTAニューロンの味覚応答特性に関する神経生理学的研究から、同野では食塩水と塩酸キニ-ネに強い応答性を示すニューロンが多く、とりわけ舌前方からの味覚情報を伝える鼓索神経を両側切断した動物では、PTA全味覚ニューロンに占める食塩水・塩酸キニ-ネ応答性ニューロンの割合がさらに高まることがわかった。この知見から、PTAへは舌後方から咽喉頭領域を支配する舌咽神経あるいは上喉頭神経からの塩味・苦味情報が多く入力することが示唆される。また、これらの味覚情報は、PTA正常動物では、脳幹にあるリッキングの運動中枢へ伝達されても、その中枢活動を抑える何らかの作用があって、律動的なリッキング運動を誘発しないが、PTA破壊動物では、その抑制作用が部分的に解かれる結果、リッキング運動がおこると考えられる。 PTAニューロンとリッキングに関与する舌運動ニューロン間の神経連絡の様相については、今後の検討課題である。
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