マウスは系統によって味応答特性が異なることが知られている。例えばC57BL/6の塩応答は強いアミロライド感受性を示すが、BALB/cは弱い感受性しか示さない。この2系統およびそれらのコンジェニック系マウスの味覚応答特性の違いを味細胞レベルで明らかにすることを試みた。この際、味細胞を味蕾から完全に単離してしまうのではなく、できるだけ生体内の環境に近い条件で味細胞の活動を記録する方法が必須であった。これは舌皮下に2mg/mlエラステ-スを注入することによって得られた味蕾を含む剥離上皮標本から、吸引によって小上皮片を含む味蕾を採取することにより達成された。結果を以下に記す。 1.塩応答発生機構には、アミロライド感受性および非感受性のコンポーネントが含まれている。 2.塩応答は、(1)両コンポーネントが単一の味細胞で同時に発現する場合(タイプ1)、(2)アミロライド感受性コンポーネントだけが発現する場合(タイプ2)および(3)アミロライド非感受性コンポーネントだけを発現する場合(タイプ3)の3タイプに分けられた。 3.タイプ1と2は、C57BL/6とBALB/cの両系統で観察されたが、タイプ3は後者のみに観察された。 BALB/cマウスは、C57BL/6と比較して、より高い食塩に対する忌避濃度閾値を示すので、アミロライド非感受性変換経路はアミロライド感受性経路とは異なる味覚情報の伝搬経路に関与しているのかも知れない。甘味応答に関しては、D-フェニールアラニン感受性の味細胞が非常に少ないことがわかった。少数の反応した味細胞では、5'-GMPやサッカリンによって増強作用も観察された。
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