実験動物としてddY系成熟雄性マウスを使用し、薬物は全て腹腔内に投与した。マウスの自発運動量は、円形の赤外線センサー付き測定装置により、10分間毎にマウスが赤外線を遮断した回数を薬物投与後3時間にわたり測定した。選択的非競合的N-メチル-D アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬であるMK-801(0.05-1.0mg/kg)は用量依存性にマウスの運動量を亢進させた。しかし、高用量(0.4-1.0mg/kg)では失調性歩行を伴ったので、これ以後の実験では、低用量(0.2mg/kg)を用いた。このMK-801(0.2mg/kg)による運動亢進作用は、NMDA受容体作動薬であるNMDA(60-120mg/kg)により、部分的にではあるが、用量依存性に抑制された。しかし、非NMDA受容体作動薬であるカイニン酸は、このMK-801による運動亢進作用に影響を与えなかった。ドパミン受容体拮抗薬であるハロペリドールも低用量(0.05-0.1mg/kg)で、しかも用量依存性に、MK-801による運動亢進作用を抑制した。他の非競合的NMDA受容体拮抗薬であるフェンサイクリジン(PCP)やケタミンでもほぼ同様の結果が得られた。以上より、非競合的NMDA受容体拮抗薬であるMK-801、PCP及びケタミンによる運動亢進作用の少なくとも一部は、NMDA受容体を介することが示唆された。更に、これらの運動亢進作用にはドパミン神経も関与することが示唆された。しかし、NMDA受容体に選択的であるMK-801と、シグマ受容体やドパミン取り込み部位にも作用するPCPやケタミンとがはぼ同様の結果を示したことから、NMDA受容体拮抗薬による運動亢進作用機序はかなり複雑であると考えられ、今後更に検討を加える必要がある。
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