ラット軟口蓋味蕾と舌茸状乳頭味蕾の機能と発達に伴う分布の変化を調べた。軟口蓋味蕾は糖、なかでも蔗糖、および各種アミノ酸、特にD体に対して著しく高い応答性を示したが、Naイオンの味覚応答を抑制するamilorideに対する感受性はほとんど無かった。一方、舌茸状乳頭味蕾は、糖およびアミノ酸に対する感受性は軟口蓋味蕾に比して著しく小さかったが、Na^+応答においてamilorideによる顕著な抑制効果を示した。一方、ラットの茸状乳頭味蕾数は、出生直後は約100個でその後増加を続け、3週齢で200個に達した。しかし味孔を確認できる成熟した味蕾の数は出生直後は15%程度と極めて少なく、2週齢で90%に達することが分かった。これに対し、ラット軟口蓋に分布する味蕾は、既に出生直後に成熟した動物と同数の180個分布し、味孔を成熟した味蕾は出生直後に既に80%程度存在し、その後2週齢でほぼ95%にまで達することが分かった。また、ラット舌有郭乳頭の味蕾数は出生直後には40個、4週齢で400個、また葉状乳頭では出生直後には味蕾が観察されず、4週齢で300個観察した。また、マウス(C3H)、ジャービルにおいても、味蕾の総数は異なるものの、成長に伴う軟口蓋味蕾と舌味蕾の分布の変化はラットと同様であることが分かった。さらに、霊長類であるマ-モセットでは、生後3日では茸状乳頭味蕾数が軟口蓋味蕾数の約3倍であったが、味孔のある味蕾の割合は軟口蓋80%、茸状乳頭60%で、ラットやハムスターと同様に出生直後は軟口蓋味蕾の方が成熟度が高い傾向にあることがわかった。また、マ-モセット舌茸状乳頭味蕾数が加齢に伴いゆるやかに減少するのに比して、軟口蓋味蕾数は2カ月齢以降、加齢に伴う減少傾向が著しく、9歳では2カ月齢の約1/3に減少することも明らかになった。これらの結果は、軟口蓋味蕾が舌味蕾と機能的に大きく異なり、成長初期に重要な役割を果たす可能性を示唆した。
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