耳下腺のアミラーゼ分泌は、膵外分泌細胞のそれと比較されるが、分泌機構は対照的である。耳下腺ではcAMPが開口分泌の主要な促進因子であるが、膵臓ではアセチルコリンやコレシストキニンなどCa動員性のアゴニストが主役である。膵外分泌ではCaとプロテインキナーゼCの役割がほぼ確立したかに思われたが、最近、チロシンキナーゼの関与が強く示唆された。すなわち、コレシストキニンはセリン/スレオニンのリン酸化に加え、蛋白質チロシンリン酸化を促進し、また、チロシンキナーゼ阻害剤はCaによるアミラーゼ分泌を強く阻害した。本研究では、耳下腺アミラーゼ分泌におけるリオシンキナーゼの役割を明らかにするため、アミラーゼ分泌と蛋白質チロシンリン酸にたいするチロシンキナーゼ阻害剤ゲニステインの効果を調べた。 ゲニステインはイソプロテレノール(ISO)によるアミラーゼ分泌を濃度依存性に阻害した。分泌阻害は300μMで80%に達し、50%阻害濃度は約120μMで膵臓における値とほぼ一致した。ゲニステインは膜透過性のcAMPアナログによる分泌も阻害することから、その作用点はcAMP生成以降と考えられる。これらの阻害はゲニステインに特異的で、ダイゼインには阻害作用が認められなかった。次に、分泌刺激やゲニステイン処理にともなう蛋白質チロシンリン酸化レベルの変化をウエスタンブロット法で調べた。ISOは耳下腺細胞の190kDa(p190)と210kDa(p210)の蛋白質のチロシンリン酸化を増強し、逆に90kDa(p90)のリン酸化を減少させた。p90の脱リン酸化はカルバコールやCaイオノフォアの処理でも見られたが、p190とp210のリン酸化はISOと膜透過性のcAMPアナログに特異的であった。ゲニステインはこれらのチロシンリン酸化を濃度依存性に低下させたが、ダイゼインは無効であった。これらの結果から、cAMPによる耳下腺アミラーゼ分泌機構に蛋白質チロシンリン酸化の関与していることが強く示唆された。
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