研究概要 |
(1)グルココルチコイドによる効果:ヒト顎下腺由来細胞株(HSG:human salivary gland adeno carcinoma cell line)はグルココルチコイドにより分化し特異的な形態変化を示す。そこでHSGのクローンであるHSG-AZA3細胞(HSG親株を分化誘導剤の5-azacitidine処理によって得たcell line)に合成グルココルチコイドであるTA(triamcinolone acetonide)を添加したところ、親株と同様の形態変化を惹起した。グルココルチコイドのアンタゴニストであるRU486はTA共存下で、TAにより生じた形態変化を阻害した。従ってこの効果はグルココルチコイドレセプターを介することが示唆された。事実HSG-AZA3には、親株同様レセプターが存在し、その含有量は親株に較べ高かった。またHSG親株はTAにより細胞増殖が抑制されるので,TA処理後のHSG-AZA3における[^3II]thymidineのDNAへの取り組みを調べたが、親株と異なり細胞増殖に対する抑制効果は認められなかった。 (2)EGF(epidermal growth factor)による効果:HSG親株において細胞増殖因子であるEGFは[^3II]thymidineのDNAへの取り込みを約1.5倍上昇させた。一方,HSG-AZA3では2-4倍の増殖効果が認められ,EGFへの応答性が高いことを示した。EGF作用の発現にはEGFレセプターの関与が推測される。そこでEGFレセプター抗体を用いてウエスタンスブロッティングをおこなったところ両細胞に170kDのレセプタータンパクを検出した。また、細胞から抽出したRNAを用いてRT-PCRを実施したところHSG-AZA3でのEGFレセプターmRNAの発現量が高いことを知った。 (3)細胞性ガン遺伝子(c-fosならびにc-myc)の検索:EGFはレセプターに結合すると細胞内に情報が伝達され細胞の増殖を促進する。その際、細胞性ガン遺伝子であるc-fosやc-mycを誘導する。そこで、これらの遺伝子の発現をタンパクレベルで調べるために免疫組織化学分析を行ったところ、親株と同様にHSG-AZA3細胞においてもc-fosの発現を認めた。また、ウエスタンブロッティングにおいても同様の結果を得た。一方、c-mycについてはRT-PCR法により,c-myc遺伝子の発現をmRNAレベルで確認した。現在、EGF刺激後のこれら遺伝子発現の変動を検索中である。また、EGFの細胞内シグナル伝達経路に係わるrasタンパクやMAPkinaseなどについても基礎実験を遂行中である。
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