研究概要 |
ヒト顎下腺cDNA試料を鋳型に用いて,PCR法によりシスタチンS,SA,SN前駆体のアミノ酸配列をコードするcDNAを増幅した.また,シスタチンSのcDNAを検索子としてヒト顎下腺cDNAライブラリーよりシスタチンCのcDNAをクローニングした.単離されたこれらのcDNAをテンプレートに用いてシスタチンS[^<-18>MArg-Trp;^<117>Arg-Trp],シスタチンSA[^<-18>Trp-Arg],シスタチンSN[^<-18>Gln-Arg]などの変異型cDNAをPCR増幅した.このようにして調製されたcDNAを発現ベクターpKK233-2のNcoI-HindIIIサイトに挿入した.これらの発現ベクターの複製開始点(ori)をpUC18(High Copy Number)のoriと置き換えることによって高レベル発現・分泌ベクターを構築した.イソプロピル-β-チオガラクトシド(IPTG)の誘導下でシスタチン遺伝子を大腸菌JM109株で発現させた.シグナルペプチドのアミノ末端付近(-18位)にArg残基(陽性荷電)が存在するとシスタチン分子の大腸菌ペリプラスム空間への分泌の効率および速度が増大した.精製されたリコンビナントシスタチンSのアミノ末端付近の配列はSSSKEENRII-と決定された.リコンビナントシスタチンSNは2種類の分子種(^1WSPKEEDR-,^<18>DLNDEWVQRE-)として精製された.リコンビナントシスタチンSAの場合は,アミノ末端付近の4残基および6残基の配列が欠如した分子形態が単離同定された.以上の実験結果は大腸菌のシグナルペプチターゼIは-Ala(-3)-Leu(-2)-Ala(-1)-Ser(+1)/Trp(+1)-配列を認識してシスタチン前駆体のシグナルペプチドを正確に除去することを示唆する.ペリプラスム画分に微量に混在する大腸菌由来のプロテアーゼは成熟型シスタチン分子のアミノ末端領域のArg-Ile,Glu-Glu,Glu-Aspなどの結合を加水分解した.作成されたリコンビナントシスタチンのパパイン,フイシン,カテプシンBなどに対する見かけ上の阻害定数はヒト唾液シスタチンの値に匹敵する.従って,これらのシスタチンは研究室レベルの要求をみたし,各方面への応用が期待される.
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