1.組織標本の染色手技に習熟するための予備実験として、ヒト口腔領域扁平上皮癌組織における種々のケラチンの発現状況を免疫組織化学で解明することを試みた。さらに、その結果と各扁平上皮癌症例の生存期間とを比較検討したところ、低分子量ケラチンの発現頻度が高い口腔領域扁平上皮癌症例の生存期間は、他の症例よりも短い傾向があることを見いだした。 2.断片化したDNAを組織切片上で可視化する染色法であるTUNEL法の諸条件、例えばプロテアーゼ・TdT・UTP濃度などを比較検討した。その結果、至適条件が明らかとなり、陽性対照群において常に安定した染色結果が得られるようになった。 3.ラットの正常舌粘膜上皮における細胞増殖活性と、DNA断片化細胞を組織切片上で観察した。正常上皮では基底層細胞のほぼ全体に増殖活性が見いだされたものの、DNA断片化細胞はほとんど認められなかった。 4.発癌剤を経口投与して、ラット舌における扁平上皮癌発生を促したのちに、舌の組織標本を作製、観察した結果、扁平上皮癌と種々の程度の上皮異形成の発生をいずれも少数見いだした。 5.上記病変における細胞増殖活性とDNA断片化とを免疫染色・TUMEL法にて組織切片上で解明したところ、異型上皮において、細胞増殖活性の亢進と少数のDNA断片細胞を認めた。 6.以上のように「口腔扁平上皮癌の発生においては、正常で生じるアポトーシスから逸脱する細胞が重要な役割を果たす」という仮説を検証したが、今回の研究では正常組織・異形上皮組織・癌組織においてアポトーシス細胞がほとんど見いだされなかったことから、上記仮説の検討のためのさらなる研究を計画している。
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