歯周疾患において歯周病原菌代謝産物が歯肉溝に存在し、その刺激が炎症の進行に大きく関与することが知られている。また、好中球は細菌による感染時に食作用と殺菌作用を行うことにより、生体の防御因子として機能している。本研究では、歯周病原菌代謝産物のひとつであるプロピオン酸の好中球細胞内刺激情報系に対する作用について好中球の刺激物質であるfMLP、PMA、タプシガ-ジン(TG)、A23187を用いてプロピオン酸との相互作用について以下の検討を行った。 1.細胞内カルシウムイオン濃度([Ca^<2+>]i:PMA以外の刺激物資は[Ca^<2+>]iを上昇させた。fMLPとプロピオン酸による[Ca^<2+>]iの上昇はPMAにより抑制されたので、プロピオン酸はホスホリパーゼCを介する系により[Ca^<2+>]iを上昇させることが示唆された。 2.活性酸素産生量:プロピオン酸は単独では活性酸素の放出を起こさなかった。しかし、fMLP、PMA、TG、A23187による活性酸素産生にに対しては約20〜30%の増強用作用が認められた。 3.ホスホリパーゼD活性:プロピオン酸は単独ではホスホリパーゼD活性の上昇を示さなかった。しかし、他の刺激物質と併用することにより、活性酸素の増強と同程度のホスホリパーゼD活性を高めた。 4.各種阻害剤による効果:活性酸素の産生に対するH-7およびBPBの効果を測定した結果、これらの阻害剤により活性酸素の産生は阻害された。チロシンキナーゼ活性、ジアシルグリセロール産生については現在検討中である。 以上の結果とこれまでの我々の実験結果より、歯周病原菌代謝産物のひとつであるプロピオン酸の好中球の刺激応答に対する作用は、単独では[Ca^<2+>]iの上昇、細胞内pHの変化を起こし、また他の刺激物質に対してはその応答作用を増強することが認められ歯周疾患において炎症の進行に関与することが推測された。
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